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絵のぼり吉田 工房滝根庵 絵師 辰昇

手描きならではの筆の表情が活きた、勇ましい絵のぼり
 いわき絵のぼりは江戸時代から伝わる歴史ある貴重な伝統技術です。いわき市泉町に工房滝根庵を構え活躍している、絵師の辰昇(しんしょう)・本名吉田博之さんは三代目。初代は明治時代に活躍していた曽祖父の近藤辰治さん。ニ代目は女流絵師ということもあり、人気の高かった母方の祖母の宇佐美しずえさんです。
 「建築関係の専門学校に通っていたとき、絵のぼりをやってみないかと祖母に言われたのがきっかけ。小さい頃から絵が好きだったこともあり、卒業後、絵師の道に進むことを決めた」と、辰昇さん。全工程を手描きで行う、昔ながらの手描き顔料染めの職人は、とても珍しいと言います。

独学で技法を習得、全国一と評価

 いわき絵のぼりは粉状の絵具の「顔料」に、大豆をしぼった「豆汁(ごじる)」を混ぜ絵の具として使います。発色が鮮やかで色あせしにくい特性です。辰昇さんが跡を継いだ時には、二代目のしずえさんが病気で、絵を教わることの叶わない状況でした。美術品として高い水準を誇った江戸時代から明治時代の作品を目標に、昔の日本画家の古い資料を集め、ひたすら模写を繰り返すこと3年。独学で絵のぼりの技法を習得し、今では書籍『江戸の幟旗』で全国一と紹介され、高い評価を得ています。

日本画の描法、子供への思いを形に

 現在はプリント製や海外製などの量産品が9割を占めているという絵のぼり。屋外用、室内用、額装幟絵、卓上ちびのぼりなど、のぼりを立てられる一戸建ての減少などが理由で、様々な種類の絵のぼりが登場しています。「これからの時代、絵の仕上がりにこだわった鑑賞用の作品が求められる」と思った辰昇さん。筆の強弱や表情などにこだわり、日本画の描法を用いて、一つひとつ手間をかけて制作しています。
 「子供に幸せな人生を送ってほしい」という願いが天にのぼり通じるようにと、細長い幟旗に子供の成長を願った絵を描く絵のぼり。厄除けには鍾馗(しょうき)、身体堅固には金太郎など、心が込もった手描き絵のぼりは、端午の節句を勇ましく彩る、子供への思いを形にした一点ものの家宝です。
■いわき市泉町滝尻字根ノ町73
■TEL.0246-96-5506

URL http://www.musyae.com/

この記事は2011年4月号に掲載されたものです。掲載当時と内容が異なる場合があります。ご了承ください。